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芥川賞と直木賞

今回は、どういうものか芥川賞と直木賞の計4作品を、読んでしまいました。
朝吹真理子/きことわ
  葉山の別荘を舞台に貴子と永遠子という2人の女性が25年ぶりに再会する。ただそれだけの話。ただそれだけの話がどうして小説になるのか、というのが読みどころ。現在と過去、現実と夢の間を自在にかけめぐる、流麗な筆さばきがみごとです。
西村賢太/苦役列車
  「平成私小説」の評判高い作品。なるほど、これはまぎれもない、日本の伝統的私小説。バブルの時代、もうこれ以下はないという底辺で、のたうちまわり生きる19歳の青年。登場人物もすべてが、魅力のない者ばかり。それでいて、どこかユーモラスな味に、中毒になる読者もいるかもしれません。かつての私小説のように。この作者の文芸素養の源泉は、もっぱら近代小説にあるのか、むやみにむずかしい、古風な漢語が出てきて、読み始めから辞書が要ります。
道尾秀介/月と蟹
  思春前期のこどもの世界。それぞれ家庭に問題のある男生徒2人と女生徒。こどもはいつの時代も純粋で残酷です。3人を結ぶ絆が、火にあぶられて焼き殺されるヤドカリ、という設定が強い印象となります。おかげで「月と蟹」というタイトルのイメージは希薄になりました。
木内昇/漂砂のうたう
  作者は女性。明治10年ごろの東京・根津の遊郭。遊女の「郭抜け」の話がミステリー仕立てになっています。全編に伏線が張られていて、油断がなりません。主要人物のほとんどが、みずからは前歴を明かしませんが、実は維新で没落した武士の出、と想像すると合点がいきます。これに三遊亭円朝の落語がからみます。「坂の上の雲」の少し前に、たしかにこういう時代があり、こういう生き方をした群像もあったのだと実感できます。タイトルは、ほかにつけようがなかったのか。仕掛けの一部に欠陥あり。
by yagi070 | 2011-01-31 18:24 | ほん

源氏物語読破

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昨年9月に、毎日新聞の連載エッセイで瀬戸内寂聴さんが、台風の話の中で「源氏物語」の「野分」のことを書いていました。なるほど源氏物語はおもしろそうだ、と思いましたが、なにしろ全54帖の大長編。1週間に1帖こなしても1年がかり。下手をするともっと手間どりそうです。学生のころ、マルクスの資本論、旧約聖書、源氏物語のうちのひとつくらいは読破せよ、といわれ、夏休みに旧約聖書だけは、わけもわからないまま、意地になって読み上げましたが、源氏は何度も挑戦しながら、とびとびにしか読めず、ずっと気にかかっていました。
年が年ですから、ここらあたりでケリをつけないと、二度とチャンスはないと、「野分」の少し前の「少女」から読み始め、宇治十帖をあげて、巻頭の「桐壺」にとって返すという、おかしな順序になりましたが、正味5か月で、とにもかくにも全巻「原文」で読み通しました。名現代語訳は多々ありますが、文末の敬語が現代語では、ダラダラしてどうにもなりません。紫式部の原文は緩急自在、とてもリズミカルです。初めはことばがチンプンカンプンでしたが、注釈についてゆくと、同じことばが反復して出てくるので、しだいに慣れて、読むスピードもついてきます。「この人物がこんなところに出てくるのはヘンだ」と思って注釈を見ると「古来不審。作者の錯誤か」などと書いてあって、うれしくなります。
それにしても430人からの人物をあざやかに書き分け、前後60年ほどにもなろうかという長い話の構成がしっかりしていることは、近頃のお手軽小説など、比較にもなりません。世界最初の長編小説というだけでなく、実に堂々たる作品であることが、あらためてわかりました。
今年は、源氏物語1000年紀です。
by yagi070 | 2008-02-12 22:20 | ほん

平家物語

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NHK大河ドラマ「義経」(イケメン主役の演技は落第)につられて、書店で文庫本の「平家物語」を拾い読みし始めたら、おもしろくてとまらなくなり、買って帰って、結局、全12巻と潅頂巻(岩波文庫4冊)を読み上げました。とにかく話と、登場人物がどれもこれも、おもしろい。チャチなラブ・ストーリーなど問題になりません。軍記物といいますが、戦闘シーンだけではなく、例えば巻12の、元暦2年(1185)7月の京都大地震の描写なども迫力あり。壇の浦の戦いで入水しながら助けられ、都へ護送されていた建礼門院は、この地震で住むところがなくなり、大原へ移住、そこを後白河法皇が訪ねる「大原御幸」の名場面になります。久しぶりに古典を読破(というほどのこともありませんが)して、気分爽快。
こういうリズミカルな「語りもの」は、やはり原文で読むにかぎります。少々わからない言葉があっても、かまわずどんどん先へ進めば、読むほうにもリズムがついてきます。
ついでに近刊の板坂耀子博士の「平家物語」(中公新書)も読んでみました。やや退屈なところもありますが、いくつか目を開かれることもありました。
岩波文庫版は、原文と注釈だけ。講談社学術文庫版は、原文・注釈に現代語訳もついていますが、12冊もあります。探せば、もっと簡略に要約した文庫本もあります。
by yagi070 | 2005-06-05 12:22 | ほん